DR.C20による新型コロナウイルススパイクタンパク質崩壊の研究

2021年1月13日
DR.C医薬株式会社

1 DR.C医薬(株)は光触媒素材のDR.C20※1粉末を固着したシート※2で新型コロナウイルス ※3 の感染価※4が99.99%減少することを実証。(長崎大学との共同研究)

2 世界初※5:DR.C20は、人工的に合成された新型コロナウイルスのスパイクタンパク質※6を3~10 分の間に複数箇所で切断することを、生化学的解析により実証した。この切断により、ヒト細胞受容体であるACE2※7 への結合に必要なスパイクタンパク質立体構造を崩壊させることが、分子動力学シミュレーションにより示唆された。(理化学研究所との共同研究)

概要

DR.C医薬(株)(代表取締役 岡崎成実)は、感染症研究の世界的研究施設である長崎大学感染症共同研究拠点 安田二朗教授(兼 熱帯医学研究所新興感染症学分野教授)と共同で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)溶液にDR.C20粉末を固着したシート(以下、DR.C20シート)を浸漬することにより、新型コロナウイルスの感染価が99.99%減少することを確認し、5分以内に99%以上減少することが推定されました。

さらに、タンパク質合成で国際的に実績のある理化学研究所横山特別研究室 横山茂之特別招聘研究員と共同で、DR.C20が、新型コロナウイルスの感染に関わるスパイクタンパク質を人工的に合成したものを用いて実験した結果、3~10分の間に複数箇所で切断することを実証しました。東京大学大学院農学生命科学研究科 寺田透准教授の支援によって分子動力学シミュレーションを行った結果、DR.C20によるこのような切断により、スパイクタンパク質のヒト細胞受容体であるACE2 への結合に必要な立体構造が崩壊すると考えられました。これらのスパイクタンパク質へのDR.C20の効果は、ウイルスの感染価のDR.C20による減少と対応することが判明しました。

背景

「新型コロナウイルス」は、2019年12月に発生が確認され、2021年1月には感染者数が世界で8,647万人、死者も187万人を超えている※8非常に感染力が強いウイルスで、 喫緊の社会問題として様々な分野での早急な対策が求められています。

今回、長崎大学と共同で新型コロナウイルスの感染価減少を実証したことに加え、新型コロナウイルスタンパク質の崩壊メカニズムを分析すべく、理化学研究所横山特別研究室 横山茂之特別招聘研究員 と共同研究を行いました。
ヒトの細胞には、新型コロナウイルスが、効率よく侵入できる分子的な仕組みがあります。細胞への“入り口”として使用されるACE2受容体と、タンパク質分解酵素であるTMPRSS2、FURINです。新型コロナウイルスはまず、表面にある突起状のスパイクタンパク質(Spike, S)を、宿主細胞のACE2受容体と結合させ、細胞膜にあるタンパク質の分解酵素TMPRSS2、FURINが、ウイルスのスパイクタンパク質を適切な位置で切断し、ウイルスと細胞の融合を助けることが知られています。したがって、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が機能しなくなれば、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染することができなくなると考えられます。

本研究の結果は、新型コロナウイルスの感染対策として、社会に貢献できると考えましたので報告します。

※1 DR.C20技術について
DR.C20は光触媒技術に基づくDR.C医薬が独自開発した粉状の酸化チタン配合新素材です。素材である酸化チタンが周囲の水から酸化力の非常に高いOH(水酸基)ラジカルを発生させ、化学反応によりウイルスの表面にあるタンパク質を分解させます。
※2 ポリエステル繊維
※3 Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(略称: SARS-CoV-2)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病因ウイルス。
※4 感染性を持つウイルス量。
※5 2021年1月7日現在、DR.C医薬社調べ
※6 SARS-Cov-2の表面に発現してタンパク質のひとつで、他に、エンベロープタンパク質(Envelope (E);ウイルス感染に重要)およびマトリックスタンパク質(Matrix (M);Eタンパク質と相互作用)がある。このスパイクタンパク質が人細胞の受容体に結合することで、ウイルスが細胞内に侵入すると考えられる。
※7 アンジオテンシン変換酵素2(Angiotensin-Converting Enzyme 2)の略称。ヒト細胞への“入り口”として使用される受容体。
※8 米ジョンズ・ホプキンス大学の集計による(2021年1月6日時点)。

実験内容① (長崎大学 熱帯医学研究所)

  • ◆実施機関:
    長崎大学 熱帯医学研究所 新興感染症学分野
  • ◆実施目的:
    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対し、DR.C20の感染価減少効果を経時的に測定すること。
  • ◆実験方法:
    ウイルス液(1×106pfu/mL) に DR.C20シートを浸漬し、一定時間静置した後にウイルス液を回収し、ウイルス量(プラーク法※9によるウイルス感染価)を測定した。(BSL-3実験室で実施)

※9 プラーク法とはウイルスに感染した細胞が変性・破壊された際に細胞溶解斑(プラーク)を形成する数をウイルス量の指標として利用する手法。

図 1.ウイルス液へのDR.C20シート切の浸漬

図 2.ウイルス感染価測定に用いた細胞(Vero E6)

  • ◆結果:

表1.DR.C20の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗ウイルス活性能

※10 無処置群 (新型コロナウイルス液のみ)

図3.新型コロナウイルス感染価試験プラーク像(冷蔵 24時間処理後検体のプラーク試験結果写真)

写真①(対照材料Sh-NC): 新型コロナウイルスが培養細胞に感染することにより、細胞が破壊されたため、白く抜けて見える。これは不活化されていない新型コロナウイルスが存在していることを示している。

写真②(被験材料SH+10):新型コロナウイルス溶液は白く抜けていない。これは新型コロナウイルスが不活化され、細胞の破壊が生じていないことを示している。

図4.ウイルス減衰分析

上記のウイルス減衰曲線を用いた分析を行なった結果、DR.C20粉末が固着されたシートは、5分以内に99%減少することが算出されました。

◆長崎大学の実験からの結論

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)溶液にDR.C20粉末を固着したシートを浸漬することにより、ウイルスの感染価が99.99%減少することを実証され、5分以内に99%減少することが推定されました。

実験内容② (理化学研究所)

  • ◆実施機関:
    理化学研究所 横山特別研究室
  • ◆実験目的:
    横山特別研究室では、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)※11 の試料を人工的に合成・調製し、その構造が、DR.C20によってどのように障害を受けるかを分析する。その障害がスパイクタンパク質の立体構造に与える影響を分子動力学計算により分析する。
  • ◆実験方法:
    DR.C20粉末(低濃度チタン+4、高濃度チタン+10の2種類)及び固着されたシートと新型コロナウイルス(SARS-CoV-2 )タンパク質を各条件下で処理し、対照群と試験群の処理サンプルをSDS-PAGE※12により分析する。
  • ◆分子動力学計算※13:
    立体構造が既知のスパイクタンパク質について、これらの切断・修飾タンパク質の立体構造が崩壊していく過程を、東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻の寺田透准教授の支援(BINDS)により、分子動力学シミュレーション、すなわち分子の動きをコンピューターで計算して視覚化したもの(可視化)を行う。スパイクタンパク質はサイズが非常に大きいため、4つ程度の原子(水素原子を除く)をまとめて1つの粒子として扱う粗視化モデルを使用。

※11 ウイルス粒子の表面を成す脂質二重膜に突き刺さる形で、スパイクタンパク質が存在する。
※12 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動。タンパク質のペプチド鎖長のみが反映された泳動結果を得るために、マイナスの電荷を持つ界面活性剤であるSDS (Sodium dodecyl sulfate = Sodium lauryl sulfate:ラウリル硫酸ナトリウム)とポリアクリルアミドゲルを利用した電気泳動。
SDSにより試料を変性させ、タンパク質固有の電荷を打消し均一にするので、分子量の推定に用いることが可能。
※13 計測結果をもとに、シミュレーションした分子の動きを示します。

  • ◆結果

(1)電気泳動である、SDS-PAGE(+βME)

① DR.C20(粉末試料)存在下でSドメイン試料溶液に人工太陽光を照射すると、3分後には切断が始まっていると考えられる。

C:コントロール(DR.C20なし)
+4:低濃度DR.C20   +10:高濃度DR.C20

②DR.C20(シート試料)存在下でSドメイン試料溶液に人工太陽光を照射するとDR.C20シート試料では3分後に切断が始まっていると考えられる。

C:コントロール(DR.C20なし)
+4:低濃度DR.C20   +10:高濃度DR.C20

(2)DR.C20存在下でSドメイン試料溶液に人工太陽光を照射すると3〜10分で切断・崩壊される。コントロールに対して崩壊したタンパク量の経時的割合

◆DR.C20粉末試料では1分後に切断が始まり、6分後には10%程度までSドメインが崩壊している。

◆DR.C20シート試料では3分後に切断が始まり、10分後には20%以下までSドメインが崩壊している。

(3) 新型コロナウイルス スパイクタンパク質の分子動力学(MD)シミュレーション

①切断されたスパイクタンパク質の分子動力学シミュレーションによって、ほぼ瞬時(2マイクロ秒;2X10-6秒)に立体構造の崩壊が引き起こされる過程を動画で示した。横から見た図。

天然状態(安定時)

天然状態のスパイクタンパク質3量体は安定で、立体構造は維持されている。

天然状態
(安定時)

天然状態のスパイクタンパク質3量体は安定で、立体構造は維持されている。

(切断中)

タンパク質のループが切断された場合、立体構造は瞬時に劣化して、崩壊を始める。

(崩壊後)

立体構造は速やかに劣化して、崩壊した。

②切断されたスパイクタンパク質の分子動力学シミュレーションによって、ほぼ瞬時(2マイクロ秒;2X10-6 秒)に立体構造の崩壊が引き起こされる過程を動画で示した。上(外側)から見た図。

天然状態(安定時)

天然状態のスパイクタンパク質3量体は安定で、立体構造は維持されている。

天然状態
(安定時)

天然状態のスパイクタンパク質3量体は安定で、立体構造は維持されている。

(切断中)

タンパク質のループが切断された場合、立体構造は瞬時に劣化して、崩壊を始める。

立体構造は速やかに劣化して、崩壊した。

(4)スパイクタンパク質 SドメインとACE2受容体に注目した分子動力学(MD)シミュレーション

RBDとACE2の複合体(PDB ID: 6M0J)

天然状態のSドメインは安定で、立体構造は維持されている。

RBDとACE2の複合体
(PDB ID: 6M0J)

天然状態のSドメインは安定で、立体構造は維持されている。

(切断中)

タンパク質のループが切断された場合、立体構造は瞬時に劣化して、崩壊を始める。

立体構造は速やかに劣化して、崩壊した。

新型コロナウイルススパイクタンパク質3量体

1   DR.C20 による分解・切断の解析

DR.C20存在下で人工的に合成されたSドメイン試料を含む溶液に人工太陽光を照射すると3〜10分で切断される

2   切断による立体構造への影響の解析

新型コロナウイルス スパイクタンパク質の分子動力学(MD)シミュレーションにより、DR.C20による切断は、速やかに、立体構造を劣化させ、崩壊を引き起こす。このため、ACE2への結合を不可能にする。

※14 S ドメイン:新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の中でヒト細胞受容体に結合するうえで特に重要な部位。

理化学研究所での実験結論   DR.C20による切断は、速やかに立体構造の劣化・崩壊を引き起こす

SドメインはACE2に結合できなくなる

DR.C20は、人工的に合成された新型コロナウイルスのスパイクタンパク質※6を3~10 分の間に複数箇所で切断することを、生化学的解析により実証した。この切断により、ヒト細胞受容体であるACE2※7への結合に必要なスパイクタンパク質立体構造を崩壊させることが、分子動力学シミュレーションにより示唆された。

現在までに、無細胞タンパク質合成法で、エンベロープタンパク質(E)およびマトリックスタンパク質(M)についても調製に成功しており、スパイクタンパク質と同様の方法で、生化学的解析を行う予定である。

■ 長崎大学及び理化学研究所 との研究からの総括

長崎大学感染症共同研究拠点 安田教授の結果からウイルスの感染価※4が99.99%減少することを実証され、5分以内に99%減少することが推定された。
理化学研究所横山特別研究室 横山茂之特別招聘研究員の結果からはDR.C20は、人工的に合成された新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を3~10分の間に切断・崩壊させ、ヒト細胞受容体であるACE2への結合に必要なスパイクタンパク質立体構造を崩壊させることが示唆された。 これらの結果より、DR.C20粉末シートを様々な物品に応用することにより、社会に貢献できると考えています。

《参考資料》
《新型コロナウイルスがヒト肺細胞に侵入するメカニズム(イラスト1)》

肺の細胞に結合

ウイルスのスパイクタンパク質がACE2受容体に結合するとヒト肺細胞のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)がスパイクの頭部を切り落とす。ウイルスが細胞に入り込むための融合機構が始動する。

肺細胞内に侵入

ウイルスと肺細胞の細胞膜が結合、ウイルスのRNAが細胞内に入る。このRNAはウイルスのゲノムで、遺伝的命令を持っている。

《DR.C20がタンパク質を分解するメカニズム(イラスト2)》